「卒業に触れて思うこと。『ある探検家の物語』」
ひとりの探検家が島にやってきました
島はとても魅力的でたくさんの財宝がねむっているのです
送ってくれた船の船頭さんは
探検家にひとつの石ころを手渡します
かれはそれをかばんにしまい
足取り軽く意気揚揚と島へと入っていきます
すぐにかれはほかの探検家に出会いました
そのひとのかばんはずっしりと重そうです
探検家は
僕もまけてられないぞ
と自分をふるいたたせました
彼との別れ際
その探検家のかばんから
小石がひとつおっこちました
探検家はそれをひろいましたが
彼はずんずん進んでしまい
その姿はもうみあたりません
かれは小石をかばんにしまいました
かれは他の探検家に出会うたびに石を拾っていくことにしました
進むほどにたくさんの探検家と出会います
ときには熟練の探検隊に遭遇することもありました
しかし宝物はみつかりません
長く短い年月が過ぎ
探検家は島を一周しました
そこではむかしここまで連れてきてくれた船頭さんが待っていました
たくさんの宝物がみつかったようだね
船頭が探検家をみていいます
いやこれは全部石ころなんだ
探検家はかばんを広げてこたえます
すると続々とほかの探検家たちが集まってきました
みな島の探検がおわったようです
一様におおきなおおきなかばんをかかえています
探検家のひろげた小石を見て
はじめに出会った探検家がたずねてきます
きみも人と出会うたびに小石を拾っていたのかい
探検家はおどろきながらうなずきました
きみたちもなのかい
全ての探検家たちが同じように
人と出会うたびに小石を拾ってきたというのです
ほらみてごらんよ
そういって探検家たちは自分のかばんをひっくりかえします
すると出るわ出るわ
金銀財宝が山のように砂浜に落ちます
銀貨に金貨
宝石のちりばめられた王冠や
龍の首もひとふりで落とせそうなぴかぴかの剣
はたまた
最新式のテレビや洗濯機
お洒落な服やロードバイク
一年分のカップめんにメルセデス・ベンツまであります
ありとあらゆるものが出てきます
探検家たちはそのお宝の山にびっくり
みんな泣いて喜びます
そして一通り宝物を眺めると
それぞれ自分のかばんから出てきた船や飛行機で島を出て行ってしまいました
あとにひとり残された探検家は船頭さんの船で帰るしかありません
かばんをかついで船に乗り島を出ました
間もなくして探検家の船は
かばんにつめたたくさんの小石があまりにも重いため
静かに沈みはじめました
ポツン
水面に残ったさいごの泡が
はじけて消えました
その後かれをみたものは
いたとかいなかったとか――
人との出会いは宝物だと
よく言うとおり
かけがえのない宝物だと思います
でもその時点ではまだ石ころです
出会いがあれば別れがあるとも
言いますが
別れはその石ころを改めて見直す機会に過ぎません
それまでの間にいかに石ころを磨いてきたかで
どんな宝物にも変わっています
別れる際に
その石ころが金銀財宝に変わっていることに気がつき
その存在の大きさに気がついて
ひとは別れに涙します
しかしその宝物は石ころに戻ることはありません
すすけたりさびたりすることはあっても
少し磨けば輝きます
前よりもっと輝きます
大切なのは
磨くことだと思います
出会いと別れがかけがいのないものになるかどうかは
どれだけ磨くかにかかっています
たくさんの卒業に触れて
僕はそう思いました。